浦和地方裁判所川越支部 平成元年(ワ)360号 判決 1991年9月05日
原告 平岡レース株式会社
右代表者代表取締役 平岡文夫
原告 鐘八株式会社
右代表者代表取締役 平岡達也
右両名訴訟代理人弁護士 石井成一
同 鈴木重信
同 岡田理樹
被告 所沢織物商工協同組合
右代表者代表理事 増田定司
右訴訟代理人弁護士 梅沢良雄
主文
一 被告の平成元年五月二七日開催の通常総会においてなされた「昭和六三年一二月一〇日開催の臨時総会決議により現在進行中の増資(三〇倍)について、本総会は一組合員の出資総額の上限等について、次の補正を行う。
1 一組合員の今回の増資によって到達する総出資口数(総出資金額)は六〇〇〇口(金参百萬円)を上限とするものとする。
2 ただし、平成一年五月一〇日を期限とする第二回払込期日までに、1に定める上限を超えて払込まれた出資金については、1にかかわらず第二回払込期日までに払込まれた口数(金額)に既存のものを加えた口数(金額)をもって上限とする。
3 今回の増資によって総出資口数(総出資金額)が1に定める上限に達しない組合員については、1に定める上限まで出資を増額できるものとする。
4 3に定める増額出資については、平成一年九月一一日の第六回払込期日以後において払込みを受けるものとし、その実施の細目は理事会に一任することとする。」
旨の決議を取り消す。
二 原告平岡レース株式会社の出資口数が五万一三五六口、原告鐘八株式会社の出資口数が三万五四三三口であることをそれぞれ確認する。
三 原告平岡レース株式会社のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その六を被告の負担とし、その余を原告平岡レース株式会社の負担とする。
事実及び理由
第一請求
(原告両名)
主文一項と同旨(以下、本件の通常総会を「本件総会」、取り消す決議を「本件補正決議」という。)
(原告平岡レース株式会社)
原告平岡レース株式会社(以下「原告平岡」という。)の出資口数が一一万三二九口であることを確認する。
(原告鐘八株式会社)
原告鐘八株式会社(以下「原告鐘八」という。)の出資口数が三万五四三三口であることを確認する。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 被告は、中小企業等協同組合法(以下「中協法」と略称する。)に基づいて設立された事業協同組合であり、原告両名はその組合員である。
2 被告は、本件総会において、あらかじめ通知した事項以外の事項について、本件補正決議を行った。
3 本件補正決議で補正された昭和六三年一二月二〇日開催の総会決議は、大要「現出資口数の三〇倍の出資口数の増資をする。右増資は各出資者一律同率の原則に従い、各出資者に対し、現出資口数の三〇倍の出資口数の引受権を与える。増資実施の細部については理事会に一任する。」というものであった(以下「本件増資決議」という。)。
これにより被告理事会では、出資口数の申込期日を平成元年三月一〇日と決め、その金額(出資一口五〇〇円)の払込みを分割して、
第一回 同年四月一〇日 現出資口数の五倍相当分
第二回 同年五月一〇日 右同
第三回 同年六月一二日 右同
第四回 同年七月一〇日 右同
第五回 同年八月一〇日 右同
第六回 同年九月一一日 右同
と決めた。
本件増資決議当時、原告平岡の出資口数は三五五九口(一七七万九五〇〇円)、原告鐘八の出資口数は一一四三口(五七万一五〇〇円)であったが、各原告は、本件増資決議及び理事会決議に従い、それぞれ現出資口数の三〇倍の出資口数を申し込み、その金額を払い込んだ。
二 原告らは、本件補正決議の取消事由として、次の事実を主張する(定款の定めについては争いがない。)。
1 被告は、石井喜代、武陽工業株式会社及び株式会社武久商店の三名が被告の組合員であるにもかかわらず、これらの者に対し本件総会の招集通知をしなかった(招集通知をしなかった点は争いがない。)。
2 被告の定款では、総会の定足数を組合員の半数以上の出席を要すると定めているが、本件総会に出席した組合員数は組合員総数六二名のうち二九名にすぎなかった。
3 被告の定款では、あらかじめ通知した事項以外の事項について議決するには出席した組合員の三分の二以上の同意を要すると定めているが、これに同意した組合員は出席組合員二九名のうち一九名にすぎなかった。
4 被告は、本件補正決議に先立ち、議案を十分説明しなかった。
5 本件補正決議は、本件増資決議により予定されていた各組合員の持分割合や増資額を大幅に変更する重要な決議であるにもかかわらず、被告は、その旨あらかじめ通知せず、本件総会当日、殊更急ぐ必要もないのに緊急議案として決議した。右は、招集手続及び決議方法が著しく不公正である。
三 被告は、各原告の出資口数確認請求に対し、次のとおり主張する。
本件補正決議が取り消され、本件増資決議に従い増資が行われるとしても、各原告の保有する出資口数は、いずれも中協法一〇条三項で制限する出資総口数の百分の二五を超えることになるため、その超過出資口数は無効というべきである。
第三判断
一 本件補正決議取消請求について
争いのない事実、《証拠省略》によれば、
1 本件総会当時、石井喜代、武陽工業株式会社及び株式会社武久商店の三名も被告の組合員であり、これらの者も含めて被告の組合員総数は五一名であったこと、
2 被告は、右三名に対し本件総会の招集通知をしないで本件総会を招集し、右三名は、本件総会に出席しなかったこと、
3 本件総会に出席した組合員は二九名(ほか代理人により議決権を行使しようとする者七名)であり、そのうち議長ほか退席した二名の組合員を除く二六名の組合員で本件補正決議案上程の可否を決議し、一九名の賛成により同議案を上程することに決まり、そして、同議案は二七名(うち代理人により議決権を行使した者七名)の賛成により可決されたこと、
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右事実によれば、本件総会の招集手続には組合員三名に招集通知をしなかった法令違反があり、そして、その組合員が通知を受けて本件総会に出席していれば、本件補正決議案が上程されず、また、同議案が上程されても、質疑の中で他の出席組合員の判断に影響を与えて同議案が否決されるに至った可能性を否定することはできないので、右法令違反は本件補正決議に影響を及ぼすものとして、これを取り消すべきである。
二 各原告の出資口数確認請求について
本件増資決議後、原告平岡は出資口数三五五九口の三〇倍に当たる一〇万六七七〇口を、原告鐘八は出資口数一一四三口の三〇倍に当たる三万四二九〇口を、それぞれ引き受け、これに応ずる金額を払い込んでいる(争いのない事実)。もとより協同組合の組合員は、法律又は定款の定める一組合員の保有することのできる出資口数の限度内において、自己の出資口数を随意増加することができるものである(なお、一組合員の出資口数を最高六〇〇〇口に制限した本件補正決議1は、取消しにより遡ってその効力を失うと解される。)。
ところで、右法律上の制限として、中協法一〇条三項本文は、「一組合員の出資口数は、出資総口数の百分の二五を超えてはならない。」と定めている。各原告の右出資口数の増加がそのまま認められるとすれば、前記石井喜代、武陽工業株式会社及び株式会社武久商店の三名を含めて被告の現在の出資総口数は二六万四三九七口であると認められ、これによれば、原告平岡の出資口数については出資総口数の約百分の四二に至り、右法律上の制限を大幅に超えることとなる(なお、原告鐘八については、約百分の一三に止まっている。)。
そこで、原告平岡の右制限を超えて保有する出資口数の効力について検討する。
1 協同組合の組合員は、その出資口数の多少にかかわらず、一個の議決権及び選挙権を有するものとされているが(中協法一一条一項)、それにもかかわらず、同法が一組合員の出資口数を制限したのは、一組合員の出資口数が余りに多いと、その者の脱退により持分が払い戻され組合経営が著しく困難になる危険があることから、事実上その者の意思が偏重され、組合運営が不健全になるおそれがあるため、その弊害を防止しようとした趣旨に基づくものと解される。もっとも、中協法一〇条三項ただし書で、一組合員が出資総口数の百分の二五を超えて出資口数を保有できる例外を定めているが、その例外も、総会の特別決議(中協法五三条五号)に基づく組合員の承認を経たうえで、出資総口数の百分の三五に相当する出資口数までの保有を認めるというにすぎない。
2 ところで、中協法は、一組合員が右法律上の制限を超えて出資口数を保有するに至った場合、その例外も認められないときに、超過する出資口数の効力やこれを解消する方法について、何ら規定を設けていない。しかし、右制限の趣旨やその例外が厳格な要件の下に認められていることに鑑みれば、例え総会の決議に従って出資口数を増加したものであるとしても、超過する出資口数を有効なものとしてそのまま放置することは許されず、出資総口数の百分の二五を超えて保有する部分については、少なくとも組合と当該組合員との関係においては、これを無効なものと解するのが相当である。
3 そうすると、原告平岡が被告との関係において有効に保有することのできる出資口数は、現有出資口数一一万三二九口を計算上順次減らして(したがって、出資総口数も順次減らして)、出資総口数に対する割合が百分の二五の状態になるときのその出資口数、すなわち五万一三五六口ということになる。
以上によれば、原告鐘八の出資口数確認請求は全部理由があり、原告平岡の同請求は五万一三五六口の限度で理由があるというべきである。
(裁判官 荒川昂 飯塚圭一 裁判長裁判官村重慶一は転任のため署名捺印することができない。裁判官 荒川昂)